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中村先生の眼瞼下垂講座⑭切らない眼瞼下垂治療とは?失敗しないための全知識を紹介

「最近、鏡を見るたびに目が小さくなった気がする」「夕方になるとまぶたが重くて肩が凝る」……。こうした悩みをお持ちの方の多くが直面しているのが「眼瞼下垂(がんけんかすい)」という状態です。

近年、SNSやメディアで「切らない眼瞼下垂治療」という言葉を耳にする機会が増えました。メスを使わずに、短時間でぱっちりとした目元を取り戻せるとあって、非常に人気の高い施術です。しかし、一方で「すぐに元に戻ってしまうのではないか?」「自分に適しているのか?」という不安を抱えている方も少なくありません。

本記事では、切らない治療(埋没式挙筋短縮術)の具体的な仕組み、メリット・デメリットまで、専門的な知見に基づき徹底的に解説します。

第1章 眼瞼下垂とは?まぶたの症状とその原因

眼瞼下垂とは、目を開ける筋肉の力が弱まったり、筋肉とまぶたのつなぎ目が緩んだりすることで、上まぶたが下がってしまう状態を指します。単に「見た目が眠そうに見える」という美容面の問題だけでなく、健康面にも多大な影響を及ぼします。

1-1. 眼瞼下垂の主な症状

1-1. 眼瞼下垂の主な症状

眼瞼下垂の症状は多岐にわたります。代表的なものとして、以下のような自覚症状が挙げられます。

  • まぶたが重く、しっかり開かない
  • おでこに深いシワができる(まぶたを上げるため、無意識に眉毛を引き上げる癖がつくため)
  • 視野が狭くなる(特に上方の視界が遮られる)
  • 二重の幅が不安定、または三重になる
  • 夕方になると目元が激しく疲れる

臨床現場で多くの患者さんと向き合っていると、目元の重さだけでなく、原因不明の頑固な頭痛や肩こりに悩まされている方が、実は眼瞼下垂だったというケースに多々遭遇します。これは、下がったまぶたを無理に開けようとして、おでこの筋肉(前頭筋)や首周りの筋肉に過剰な負担がかかるために起こる二次症状です。

1-2. 眼瞼下垂の原因3つ

眼瞼下垂が起こる原因は、主に以下の3つに分類されます。

  1. 加齢による挙筋腱膜の緩み 最も多い原因です。まぶたを持ち上げる「上眼瞼挙筋」の力が、腱膜という組織を通じてまぶたに伝わらなくなることで起こります。
  2. コンタクトレンズの長期使用 特にハードコンタクトレンズを長年使用している方に多く見られます。コンタクトレンズ装用者は非装用者に比べて眼瞼下垂の発症率が高い傾向にあることが指摘されています。これは着脱時にまぶたを引っ張る動作や、レンズによる裏側からの摩擦が筋肉に負担をかけるためと考えられています。
  3. まぶたへの物理的刺激(目をこする癖など) 花粉症やアトピー性皮膚炎などで日常的に目をこすったり、濃いアイメイクをクレンジングで強くこすり落としたりする習慣も、腱膜を弱める要因となります。

1-3. 放置すると改善しない?日常生活への影響

眼瞼下垂は緩徐に進行していき、一度発症すると自然に完治することはありません。それどころか、加齢とともに症状が進行していくのが一般的です。

症状が進行すると、視野障害により車の運転が危険になったり、読書やPC作業が苦痛になったりと、QOL(生活の質)が著しく低下します。例えば、60代の男性で「最近ゴルフでボールの行方が追えなくなった」と来院された方が、治療後に「視界が明るくなり、趣味を再び楽しめるようになった」と喜ばれる場面を拝見すると、早期治療の重要性を強く実感します。

第2章 切らない眼瞼下垂治療とは?

「手術は怖いけれど、まぶたの重さを解消したい」というニーズに応えるのが、切らない眼瞼下垂治療です。医学的には経結膜的埋没式挙筋短縮術と呼ばれます。

2-1. 切らない眼瞼下垂の手術方法

この術式は、皮膚を切開する代わりに、まぶたの裏側(結膜側)から糸を通すのが最大の特徴です。

具体的には、まぶたを持ち上げる筋肉(上眼瞼挙筋やミューラー筋)の一部を糸で手繰り寄せて縫い縮め、連結を強めることで、目を開ける力をサポートします。これは切開による眼瞼下垂手術(挙筋前転術)と同じく、伸びてしまった挙筋腱膜にアプローチする手法です。表面に傷が一切残らないため、周囲に知られずに治療を受けたい方に選ばれています。

2-2. 切らない眼瞼下垂の施術ができる人とできない人

非常に便利な術式ですが、残念ながら万能ではありません。

  • 適応となる人: 軽度から中等度の眼瞼下垂で、まぶたを持ち上げる筋肉の機能(挙筋機能)がしっかり残っている方。
  • 適応とならない人: 重度の眼瞼下垂の方や、まぶたの皮膚が著しく余っている(皮膚弛緩症を併発している)方。

切らない眼瞼下垂の施術は、30代〜40代で「最近なんとなく目が重くなってきた」という初期症状の方には良い適応となることがあります。一方で、眼瞼下垂の症状が重度の方では切らない方法では十分な引き上げ効果が得られない、あるいはすぐに戻ってしまうリスクがあります。くわえて、厳密に左右の目の開きを揃えたい場合などでは切開での眼瞼下垂手術をご提案することが一般的です。

2-3. 切らない眼瞼下垂以外の切らない治療法

根本的な解決策ではありませんが、補助的なアプローチとして以下の方法もあります。

  • ボトックス注射: 眉間のシワや、目周りの筋肉の過剰な緊張を和らげることで、副次的に目元をスッキリとさせる効果が期待できます。
  • 点眼(アップニーク®ミニ点眼液0.1%): ミュラー筋のα受容体に選択的に収縮する点眼薬「アップニーク」が2025年12月22日に国内で初めて製造販売承認を取得しました。眼瞼下垂を根本から治療する薬ではありませんが軽度の眼瞼下垂の方の症状をここしばらく緩和する効果は見込めるものと考えられます。

薬剤情報
・参天製薬より発売
・1日1回点眼、点眼後8時間以上MRD-1の改善を認める
・眼瞼そう痒症(112例中1例)が認められたが、重篤な副作用および投与中止に至った副作用は認められなかった
参考→参天製薬HP

※予防としての効果は期待できますが、すでに腱膜が外れてしまっている場合には効果は限定的です。

これらはあくまで「現状維持」や「予防」の範疇であり、構造的な問題を治すには、やはり挙筋短縮術などの処置が必要となります。

第3章 切らない眼瞼下垂のメリット

切らない眼瞼下垂治療がこれほどまでに支持されるのには、美容外科・形成外科的な観点からも明確な理由があります。

3-1. メリット① 傷跡が目立たない・皮膚に切開しない

最大のメリットは、お顔の表面に傷が一切残らないことです。 まぶたの裏側から処置を行うため、目を閉じた時でも手術の跡が分かりません。パートナーや家族にも内緒で受けたいという方にとって、この心理的なハードルの低さは大きな魅力です。

3-2. メリット② 腫れが少なくダウンタイムが短い

切開法の場合、強い腫れが2週間〜1ヶ月程度続くことがありますが、切らない方法であれば、大きな腫れは数日から1週間程度で落ち着く傾向があります。 多くの患者さんが、週末に施術を受けて月曜日から仕事を再開されています。メイクも翌日や数日後から可能な場合が多く、日常生活への復帰が非常にスムーズです。

3-3. メリット③ 手術時間が短く身体的負担が少ない

施術時間は両目合わせて30分〜1時間程度と非常に短時間です。 局所麻酔のみで行えるため、お身体への負担が少なく、日帰りでの帰宅が当然のスタイルとなっています。忙しい現代人にとって、拘束時間が短いことは大きな利点です。

3-4. メリット④ 施術前に効果のシミュレーションができる

術前にブジー(専用の細い棒)を使用して、まぶたがどれくらい上がるか、どのような印象になるかを実際に鏡で見ながら確認できます。 「どれくらいパッチリするか」を事前に体感できるため、仕上がりに対する不安を解消した上で手術に臨める安心感があります。私たちが診療を行う際も、このシミュレーションの時間を最も大切にしており、患者さんと理想のイメージを共有することで満足度の向上に努めています。

第4章 切らない眼瞼下垂のデメリット

メリットの裏側には、必ずデメリットが存在します。ここを正しく理解することが、満足度の高い治療への第一歩です。

4-1. デメリット① 手術の効果が限定的・確実性が低い

切らない手法は、皮膚を切らずに「手の感覚」で糸をかけるため、切開法のように直接組織を確認しながら固定することができません。そのため、筋肉の引き上げ具合に誤差が生じやすく、切開法と比較すると効果の確実性において一歩譲る面があります。

4-2. デメリット② 施術の適応範囲が狭い

日本人のまぶたは、欧米人に比べて脂肪や皮膚が厚い傾向にあります。臨床の現場でも、まぶたの厚みが強い方に無理に埋没法を行うと、糸にかかる負担が大きくなり、十分な開きが得られないケースを散見します。左右差が極端に強い場合も、糸だけの調整では限界があるのが実情です。

4-3. デメリット③ 効果の持続性に問題・後戻りのリスク

埋没法の宿命とも言えるのが「後戻り」です。個人差はありますが、一般的に効果の持続は5〜10年程度とされることが多いです。糸が徐々に組織に馴染んだり、緩んだりすることで、数年かけて元の状態に近づいていく可能性があります。

4-4. デメリット④ 合併症・腫れのリスクがある

まれに糸の露出や、それに伴う角膜の擦過傷(キズ)、結膜肉芽腫などの合併症が起こる場合があります。日本眼科学会等の報告でも、裏まぶた(結膜側)の処置におけるトラブル事例は注意喚起されています。また、切開よりは少ないとはいえ、術後数日間は内出血や違和感が生じるリスクはゼロではありません。

4-5. デメリット⑤ 費用・料金が高額(自由診療)

切らない眼瞼下垂は「美容目的」とみなされるため、基本的に健康保険が適用されません。相場は両目で15〜45万円程度と、保険適用の切開手術(自己負担3割で約5万円程度)と比較すると、金銭的な負担は大きくなります。

4-6. デメリット⑥ 繰り返し施術で費用がかさむ

後戻りをするたびに再手術を繰り返すと、トータルコストは膨れ上がります。また、何度も糸を通すことでまぶたの組織に瘢痕(硬い組織)ができ、将来的に切開法に切り替える際の手術が難しくなるリスクも考慮すべきです。

4-7. デメリット⑦ ミュラー筋の損傷:眼瞼痙攣のリスク

加齢に伴う眼瞼下垂の本態は腱膜性眼瞼下垂、眼瞼挙筋腱膜のたるみによるものです。切開式の挙筋前転ではそのたるんでいる部位を目視下に正確に引き締めることが可能です。切らない眼瞼下垂では、眼瞼挙筋とその裏に存在するもう一つの筋肉「ミュラー筋」を一緒に縫って引き締めます。ミュラー筋は感覚受容体の役割も持っており、刺激で眼瞼痙攣がおこる可能性が示唆されており、一度発症するとその治療は難治です。

第5章 切らない眼瞼下垂と保険適用施術の違い

「安く済む保険の切開」か「高額だが手軽な自由診療の埋没」か。多くの方が悩まれるポイントです。

5-1. 保険適用と自由診療の違い

保険適用はあくまで「機能回復」を目的としたものです。視野が狭い、眼精疲労がひどいといった「疾患」を治すための手術であり、二重の幅を細かく指定するなどの「美容的な要望」を応えることまでは主目的とはならないのが原則です。対して自由診療は、機能改善に加え、見た目の美しさを追求できるのが最大の違いです。

5-2. 切開法と埋没法の違い(比較表)

比較項目 切らない治療(埋没法) 保険適用の治療(切開法)
傷跡 表からは見えない 二重ラインに沿って残る
腫れ(目安) 1〜2週間程度 2〜4週間程度
持続性 2〜10年程度(個人差あり) 半永久的
費用 15〜45万円(自由診療) 約6万円(保険3割負担)
重度の対応 難しい 可能

5-3. どちらの手術を選ぶべき?

「仕事が休めない、傷を作りたくない」という20〜40代の方は、まずは埋没法が選択肢に入ります。一方、50代以降で皮膚のたるみが強い方や、一度で確実に治したい方は、最初から切開法を選んだ方が満足度が高くなる傾向にあります。

第6章 偽性眼瞼下垂に注意!事前に知るべきこと

「まぶたが下がっている=すべて眼瞼下垂」ではありません。

6-1. 眼瞼皮膚弛緩症との違い

筋肉の力は正常なのに、表面の皮膚が余って覆いかぶさっている状態を「眼瞼皮膚弛緩症(がんけんひふしかんしょう)」と呼びます。この場合、筋肉を縮める埋没法を行っても、余った皮膚が改善されないため、十分な効果を実感できません。

6-2. まぶたのたるみが原因の場合の施術法

皮膚の余りが原因なら、眉下切開や上眼瞼切開で「皮膚を切り取る」処置が根本治療です。また、一重であればただ二重にするだけでも皮膚のたるみをたくし上げる効果で皮膚のたるみを部分的に緩和することが期待できます。臨床現場では、眼瞼下垂と皮膚弛緩が合併しているケースも多く、その見極めには専門医による正確な診断(鑑別診断フローに基づく評価)が不可欠です。

第7章 切らない眼瞼下垂手術を受ける前にすべきこと

失敗を避け、納得のいく結果を得るための4つのステップをまとめました。

  1. 専門医による正確な診断を受ける
    日本形成外科学会や日本美容外科学会(JSAS/JSAPS)の専門医資格を持つ医師に、自分の症状が本当に「切らない術式」に適しているか診てもらいましょう。
  2. カウンセリングでの確認
    厚生労働省のチェックリストにもある通り、費用の総額、合併症のリスク、万が一戻ってしまった時の保証制度について、書面で説明を受けるようにしてください。
  3. シミュレーションを徹底する
    「目が開きすぎて不自然にならないか」など、術後のイメージを鏡の前で医師と共有しましょう。
  4. インフォームド・コンセント(説明と同意)
    メリットだけでなく、あえてデメリットを詳しく話してくれる医師は、誠実である可能性が高いです。

第8章 切らない眼瞼下垂に関するよくある質問

術後の腫れはどのくらいで改善する?

個人差がありますが、大きな腫れは1週間、内出血が出た場合も2週間程度で消失するケースがほとんどです。完全に組織が馴染むには1ヶ月程度かかります。

過去の二重埋没法の糸はそのままで大丈夫?

基本的にはそのままでも施術可能ですが、古い糸のせいでまぶたがガタついている場合は、抜糸を併用した方が仕上がりが綺麗になることもあります。

男性でも切らない治療は受けられる?

もちろんです。最近は「おでこのシワを消したい」「仕事での印象をハツラツとさせたい」という男性の患者さんも増えています。男性の場合は、あまり二重を強調せず、自然な開きを重視するデザインが好まれる傾向にあります。